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鴎座俳句会&松田ひろむの広場

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俳句における引用と著作権について

俳句における引用と著作権について    松田ひろむ
2006.8.22改訂(2006.9.5共同著作物追加)
2006.9.12改訂(主従関係変更)



引用
俳句においても「報道、批評、研究その他」(著作権法の用語)のために、他者の「公表された」俳句を「引用」して利用することができる。
 「報道」「批評」「研究」の用語だけでなく、講評、批判、考察、鑑賞あるいは紹介、参照などの用語もあるが、これも引用の目的に含めて差し支えない。
 また、他者の代表句、秀句、感銘句などの選出も一種の「批評」「研究」「紹介」「参照」であり、これも行うことができる。
 最高裁昭和55年3月28日判決によると、「引用とは、紹介、参照、諭評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいう」とされている。 
従って自分が作成する文章、その他の自分の著作物の中で使用する場合であることが必要であり、他人の文章などを単独で使用することはできない。

必然性
引用することが出来るのは上記の「報道、批評、研究」プラス「その他」があるが、この「その他」について考えると、「報道、批評、研究」は例示であって、これ以外に「引用を行う必然性」がある場合が考えられる。この「必然性」は、非常にあいまいな概念であり、例示の「報道、批評、研究」に加えて「必然性のある場合」と解するべきものである。報道、批評、研究のための引用のすべてに「引用の必然性」があると解すべきではない。 
「著作物を自己の著作物中に持ってくるだけの必然性が認められる創作目的」がきちんとあれば引用の目的(その他)の仲間入りできると解されます。( 参考「著作権法逐条講義」加戸守行著、社団法人著作権情報センター234頁) とあり、追加規定と考えることが妥当である。つまり引用の「必然性」を狭く解釈すると、引用そのものの否定となり、憲法で保障されている表現の自由の侵害になる。
「報道、批評、研究」が例示であることは、最高裁の判例(55年3月28日)でも「紹介、参照、論評その他」と著作権法と異なる用語を使用していることでも明らかである。

引用の範囲
 俳句という短詩においては「引用」は、「全文引用」の形とならざるを得ないが、それも差し支えない。
 「引用はつねに著作物の一部分のみについてされるとは限らない。特に短歌や俳句、名言などにあっては、その全部を引用することも差し支えない。」(斉藤博著『概説著作権法』昭和五十五年)、「俳句のような短い文芸作品の場合ですと、その一部分の引用ということは考えられませんので、これらは全部の引用が可能となりましょう」(加戸守行著「全訂著作権法逐条講義」平成元年二月)」(参考:東京高裁、平成15年7月31日、平成14年(ネ)第3647号、謝罪広告等請求控訴事件の判決理由)
 ただし、本文の量に比較して「引用」ばかり、あるいは一冊の句集を、そっくりあるいは相当部分を「引用」ということはあり得ない。
 また引用部分を「 」(かぎかっこ)でくくり、あるいは字下げをするなど引用部分を明瞭に示す必要がある。

出所の明示
出所(出典)を明示する必要がある。(著作権法48条)
出所の明示の方法は、「それぞれのケースに応じて合理的と認められる方法・程度によって行われなければいけないとされていますが、引用部分を明確化するとともに、引用した著作物の題名、著作者名などが読者・視聴者等が容易に分かるようにする必要があると思われます。」(文化庁ホームページ「著作権Q&A」)とされている。ただし書物の巻末に一括して「参考文献」として挙げるのは明示とはいえない。
「合理的と認められる方法・程度」が問題であるが、短文のコラムに俳句を引用する場合に、出典を細かく明示すると煩雑になるので、その程度を合理的に解釈すればいい。例えば文末に「出典:**俳句歳時記」(出版社)と簡略に明示しても合理的であろう。学術的な論文では詳細にページ数まで明示する必要があることはいうまでもない。
出典は一次著作物が望ましい。いわゆる「孫引き」の二次著作物でも差し支えないが、この場合は一次著作物と同一であるか不明な場合もあるので、慎重に行うべきである。

主従関係
主従関係は量的な問題ではない。「寸鉄人を刺す」といわれるように、短評であっても差し支えない。「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」であることが従であると解される。本文の「批評」が引用文と比較して短くても差し支えないのである。つまり「寸鉄の評言が引用にならず、冗長な批評なら引用になるということはあってはならないのです。」「具体的な事情のもとで、批評その他の目的にとって必要な限度の量の利用か否かによって決せられます。」(北村行夫・雪丸真吾編『Q&A引用・転載の実務と著作権法』63ページ)

同一性保持
引用部分については、要約要旨を引用ではなく、原著作物を忠実に引用するように努めなければならないことになっている。(同一性保持)
これを一句一著作物である俳句でいえば、逆に要約でなく全文引用を求めていると解釈できる。例えば旧仮名づかいの作品は旧仮名づかいで引用することが望ましい。ただし字体などは印刷、WEB上の制約に従って差し支えない。

公正な慣行
 引用については、俳句における各種の出版物(単行本・雑誌・新聞など)において、著者の合意の有無を問わず、引用が行われている。
 ラジオ、テレビなども同様である。ただし、俳句の場合は投句作品に対する批評、講評、あるいは秀句の紹介という形も多い。
 インターネット上の各種サイトでも同様である。
 上記の「雑誌」には俳句結社誌、俳句同人誌、俳句総合誌、各種俳句団体の機関誌などがある。

代表句の掲載
 例えば没後50年経過していない中村草田男を例に挙げる。
例1、中村草田男の一句あるいは数句を取り上げ、相当の内容の例えば100字程度の論評を加えることが、もっとも引用のあるべき姿である。これも出典の明示が必要である。もっとも短い批評であっても差し支えない。(前述「主従関係」参照)
例2、中村草田男の略歴、業績、特徴、俳句史的な考察などを1000字程度の文章にまとめ、そののちに代表句として10句程度を掲載した場合。
批評、研究、紹介、参照、論評と考えられる内容であれば、主従の関係であるので著作権法の引用の範囲である。ただし出典の明示が必要。
これが100句程度でも文章の量の多寡が主従関係ではないので、引用の範囲であれば差し支えない。しかし、これは作品を掲載することが目的で、文は添えものと判断された場合つまり単独の鑑賞物となる場合は、引用を逸脱することになる。
それ以上、例えば句集一冊をそっくり掲載することは、あきらかに引用を越えるので出来ない。
例3、例えば「現代俳句名作選」として、中村草田男他何名かの作品を、文章なしで各五句ずつ掲載した場合。(相当の内容の文章があれば例2と同じ)
その選出に選出者あるいは編集者の創造性、独自性が認められれば引用と考えられる。これは俳句のような全文引用ではないが、音楽のCDなどの「ベストアルバム」の選出などでも行われていることである。(これはタイトルの例示であって、音源を無断で利用することは出来ない。)
この俳句における地の文章なしの名句選、代表作選が、もっとも難しい問題となる。著作権に関わる判例での「主従の関係」「必要最小限」から考えると引用を越えるとも考えられる。
ただし、俳句の短いという特質、同様のことが、これまでも俳句雑誌、単行本などで繰り返し行われているという俳句界の慣行から考えると、「公正な慣行に合致」すると考えられる。この場合、選出者(選者)が明記されることが望ましいが、それがない場合は雑誌の場合は編集部が選者と考えられる。またWikipediaなどのWeb上の引用も、選者が特定される場合(Wikipediaの場合は履歴に「利用者」が明示される)は、上記と同様と考えられる。

営利を目的としない利用
 著作権法では「引用」の範囲でなくても、営利を目的としない上演等(著作権法38条)での著作物の利用を認めている。
 これを俳句に置き換えて考えてみると、著作物の利用自体に営利が認められない個人のホームページに俳句を自由に利用、掲載することは差し支えないと解される。ただし当然ながら他者の俳句を自己の俳句として発表することはできない。(著作人格権の侵害になる。)

本稿における考察は、俳句を短歌と置き換えても同様である。

以上本稿は転載可です。(著作権法に基づく引用は自由、「転載」もご連絡いただければ基本的に許諾します)

引用(著作権法第32条)
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

営利を目的としない上演等(著作権法38条)
第三十八条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
2 放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、有線放送することができる。
3 放送され、又は有線放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。
4 公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。
5 映画フィルムその他の視聴覚資料を公衆の利用に供することを目的とする視聴覚教育施設その他の施設(営利を目的として設置されているものを除く。)で政令で定めるものは、公表された映画の著作物を、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物の貸与により頒布することができる。この場合において、当該頒布を行う者は、当該映画の著作物又は当該映画の著作物において複製されている著作物につき第二十六条に規定する権利を有する者(第二十八条の規定により第二十六条に規定する権利と同一の権利を有する者を含む。)に相当な額の補償金を支払わなければならない。

判例 漫画家小林善範(よしのり)が敗訴した事件
【事件名】『新ゴーマニズム宣言』の肖像権侵害事件(2)
【年月日】平成15年7月31日
 東京高裁 平成14年(ネ)第3647号 謝罪広告等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成12年(ワ)第18782号)
「判決理由」より
加戸守行著「全訂著作権法逐条講義」(平成元年二月発行)には、「絵画を引用するということがいわれますけれども、絵画の引用がここでいう公正な慣行に合致するかどうかには、若干の問題があります。というのは、美術史においてその記述に密接に関連した資料的な意味で引用する場合は公正な慣行に合致するでしょうけれども、引用とはいいながら、実質的には鑑賞的な形、つまり、その引用された絵画を見る人が鑑賞する形で使われているということになるとすれば、公正な慣行に合致しません。」との記載も、「引用される著作物の分量の問題ですけれども、事柄の性質上、美術作品とか、写真とか、あるいは俳句のような短い文芸作品の場合ですと、その一部分の引用ということは考えられませんので、これらは全部の引用が可能となりましょう。」との記載もある。

参考文献・サイト
http://www.houtal.com/journal/netj/01_3_15.html 弁護士 服部廣志 服部法律事務所
「俳句や短歌や短詩などは、短いのでたいていは全文引用になるでせうし、ならざるをえないでせう。」(下記より引用)
http://www.interq.or.jp/www1/ipsenon/p/memoc1.html 「著作権と詩文芸」に関するメモ

以上「引用」の制約は著作権の存続期間についてであり、著作権者の没後50年後は自由に使うことができる。

著作権の消滅(終期)
終期の原則
著作権は、著作者(共同著作物の場合、最後に死亡した著作者)が死亡してから50年を経過するまでの間、存続する(著作権法51条2項)。著作権の存続期間の起算点には、著作者の死亡時点を起算点とする死亡時起算主義と、著作物の公表時を起算点とする公表時起算主義があるが、日本国著作権法では死亡時起算主義を原則とし、後述するケースにおいて公表時起算主義を例外的に適用することにしている。
終期の例外
無名または変名の著作物
無名または変名の著作物の著作権は、その著作物の公表後50年を経過するまでの間、存続する(著作権法52条1項本文)。無名または変名の著作物では著作者の死亡時点を把握することが困難であるから、公表時起算主義を例外的に適用したものである。
ただし、公表後50年までの間に、著作者が死亡してから50年が経過していると認められる著作物は、著作者の死後50年が経過していると認められる時点において著作権は消滅したものとされる(同項但書)。また、以下の場合には著作者の死亡時点を把握することができるから、原則どおり死亡時起算主義が適用され、著作権は著作者の死後50年を経過するまでの間存続する(著作権法52条2項)。
変名の著作物において、著作者の変名が、著作者のものであるとして周知である場合(同条2項1号) 
著作物の公表後50年が経過するまでの間に、著作者名の登録(著作権法75条1項)があったとき(同項2号)
著作者が、著作物の公表後50年が経過するまでの間に、その実名または変名(周知なもの)を著作者名として表示して著作物を公表したとき(同項3号)
ここで、「無名の著作物」とは、著作者名が表示されていない著作物をいう。「変名」とは「雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの」(著作権法14条)であり、「その他実名に代えて用いられるもの」の例としては俳号、芸名、四股名、ニックネーム等が挙げられる。


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